空気公団 「こんにちは、はじまり。」の感想。
調度リリースから1年位なので、この機会にあれこれ書いてみます。
空気公団
「空気公団」という、素晴らしいバンドが日本にいる。何処か懐かしくて、心の奥に静かに響いてくる音楽。今いるここから、遠くの街まで、ずっと風景を繋げてくれるような。彼女たちが、ずっとそうやって音楽を続けてきてくれたことが、とても嬉しい。そして、「こんにちは、はじまり。」というアルバムで、また一つ次へ進んだように思う。
以前に、空気公団について紹介する記事を書いたので、あまり知らない方は読んでもらえるとすごく嬉しい。空気公団の良さが伝わるよう、全力で書いたつもり。
こんにちは、はじまり。
テーマ
OTOTOYのインタビューで、空気公団の3人がこのアルバムの経緯だったり、中身について語っている。ボーカルで、殆どの曲を作っている山崎さんは空気公団のアルバムを作る時に、どちらかと言うと曲単位では無くアルバム単位で考えていくらしい。今回も、一つのテーマに向かって進んでいる。 ototoy.jp
何かが終わることは、何かがはじまること。はじまりは無くならない。
ジャケットも独特。これで成立させてしまうのが空気公団の凄い所。例えば、バックの色を赤系にして、フォントをロック系のにしたらパンクになりかねない所。絶妙なバランス。それにしても、山崎さんはいつも面白い髪型をしている気がする。
以下、各曲の感想など。
1.伝う
僕が君を想う気持ち
次は誰かに
伝えて
この1曲目の「伝う」はアルバムの中で一人ポツンと立っているような曲。他の曲よりも、はっきりとしたメッセージが込められている。自分に伝わって来たものが、誰かに伝わって、また他の誰かに伝わるといいな。そんな曲。
2.はじまり
空気公団 "はじまり" (Official Music Video)
イントロのジャーンという歪んだエレキギターの音が印象的。MVだとまた少し違うけれど。伝うから、はじまりの流れで「あっ、始まったな」という感じがして素敵。この曲だけドラムがオータコージさんでは無く、Ken-ichi Yamashitaさんと言う方が叩いているらしい。
3.苦い珈琲の言い訳
三連符のピアノが印象的。はじまりからの流れで、また情景が変わる。今回のアルバムはこの曲もそうだし、9曲目の「毎日が過ぎても」もそうだけれど、ちょっと大人っぽい曲調が多い。空気公団は毎回変化しているけれど、「夜はそのまなざしの先に流れる」から、それまでよりも一層コンセプチュアルと言うか、より強く芯の通った感じがするようになった。それが、大人になった、ということなのかは良く分からない。ただ、最近花澤香菜さんのプロデュースをしてみたりと、変化を感じる。
花澤香菜 『透明な女の子』(Music Clip Short Ver.)
アレンジが空気公団そのものなので、空気公団を好きな人が聞くとあまり歌声が入って来ないのです。花澤さんのファンの方にはどういう風に聞こえるのだろう。
4.声の梯子
(インストゥルメンタル)と書いているけれど、山崎さんの朗読が入る曲。ピアノは山崎さんが弾いていて、それ以外の音は全部シンセで鳴らしている様子。朗読が始まる所が、一瞬ドキっとする。ちょっとホラーな曲。
最後に雨の音がなって、そのまま次の曲へ繋がっていく。
5.連続
雨の音が頭から入っていて、凄く生活感を感じる。3曲目、4曲目と少し遠い所へ飛んだイメージだったので、一気に町の風景に戻ってきた感じ。アルバムの特典DVDにはこの曲のMVもあったけれど、ネットにはこの曲だけ上がっていないみたい。
6.新しい窓
アルバム内で、一番今までの空気公団っぽい曲。この曲は、初めて歌モノの作曲を戸川さんがしているらしい。
戸川 : ここ何作か僕と窪田さんも作曲してたんですけど、ゆかりさんから歌モノにするんだったら歌詞は自分で書いてと言われていたので、インストを作ってたんですよ。でも、今回はゆかりさんが歌詞を書いてくれるっていう話だったので「やった!」と思って。
山崎 : (笑)。 -OTOTOYインタビューより
今まで、何回位山崎さんに「歌詞は自分で書いて」と言われたのか分からないけれど、戸川さんの念願が叶ったようで心が温まる。そして、個人的にはアルバム内で一番好き。
なぜか僕はただ
黙ってみてしまう
飛び立つときは今かもしれない
どうしてかは分からないけれど、泣きそうになるフレーズ。
イントロの音の感じが夜っぽいのだけれど、この曲はいつのイメージなのだろう。
7.なくしたものとは
8.手紙が書きたい
新しい窓から、一気に楽し気なリズムに。この2曲は自分の中で繋がっているイメージ。
窪田 : 最初に山崎から「手紙が書きたい」ってタイトルをもらってたんですよ。僕は「書きゃいいじゃん」って思ったんですけど。でも、「手紙が書きたい」人は書きたいけど書けないんだろうなと思って、その苦悩やグルグル迷ってる感じや、異物感が曲にあるといいなと思いながら作りました。それで、ギターも入れてみました。
山崎 : 演奏は、私たちはノータッチに近いよね。
戸川 : 僕はこういうグルーヴクォンタイズをかけたらっていう話と音をちょっと悪くしたほうがいいんじゃないっていう話をしたぐらいです。演奏は100%窪田さんですね。
―OTOTOYインタビューより
インスト曲なので、流れている間に歌詞を追わない代わりにCDのデザインなどを見返していた。
CDの裏ジャケット。窓から街の風景を眺めている。時間は夕方位だろうか。
ふと思ったのは、これは「これからもこの街を描き続けていくよ」というメッセージなのかな、ということ。
色んなバンドがいて、色んな音楽をやっている人がいる。中には海外に出て行く人もいるし、日本で活動していても、凄く独特の世界観を描き続ける人もいる。
そういう中で、空気公団はずっと「ありふれた日常の中の、ささやかなこと」を描き続けてきた。ドラマチックなことじゃなくても、例えば猫が可愛かった、とか、珈琲が苦かった、とか、ちょっと気になってる人に会えた、とかその位の事こそが本当はもっと大切にすべきことで、それは見方を変えれば幾らでも美しくなれる、と言う様な。それは、例えば重松清さんの小説に近いかもしれない。
山崎さんの中で増幅されたイメージが、空気公団を通して日常へ溢れだすイメージ。
9.毎日が過ぎても
そんな事を考えていたら流れてきた9曲目。
Youtubeではないけれど、MVがある。
毎日が過ぎても
ここにいるよ
自分がどうして空気公団が好きなのか、色んな理由があるけれど多分「ここにいるよ」って言ってくれていたからだと思った。それは、言葉にしなくても、曲を聴いて居るだけですっと伝わってきていたけれど、今回改めて言葉にされたことで、凄く納得した。
空気公団は変化し続けるけれど、ずっとこの街で暮らして、それを描き続けてくれる。それが素敵なのだと。間違いなく、今の僕の心の支えの一つになっている。
ここにいるよ、といえば震災の時に発表された「ここにいるよ」と言う曲がある。
散歩する
振り返る 君はいない
僕はここにいるよ
空気公団「♪ここにいるよ。ver.0~飼い主を、待っています。」
10.お山参詣登山囃子
空気公団 "お山参詣登山囃子" (Official Music Video)
アルバム内で、唯一先行配信されていた曲。恐らく、全ての空気公団ファンの度肝を抜いたであろう曲。なんだこれ。
山崎 : 「お山参詣登山囃子」は昔からある曲で、青森県弘前市にある岩木山にお参りに行くときに歌う歌ですね。私は青森市出身なんですけど、小学生のときに何回か体育館で歌った記憶があります。でも、その当時は「なにをしてるんだろ?」って感じで全くその意味はわかりませんでした。それで、『こんにちは、はじまり。』を作ろうと思ったときに、そういえばあの曲はなんだったのかなと思い出したんですね。それから色々と調べてみたら、すごく伝統的で神聖な曲で、これは絶対空気公団でやらなければと思ったんですよね。2人にもその話をして、カヴァーすることに決まりました。
-OTOTOYインタビューより
空気公団というバンドの凄さを思い知らされる曲。山崎さんのボーカルは確かにあるのだけど、そうでなくても演奏だけでどんな曲も空気公団の音にしてしまう。それは、バンド内での暗黙の了解と言うか、空気公団的なことが確かに在るのだろうなあと思う。
アルバムとしては、9曲目の「毎日が過ぎても」で締めの雰囲気が出ている中で、最後にこの曲を持ってくるというはじまり感。どう納めれば良いのか分からない感じが、アルバムのコンセプトに合っているなあと。次に空気公団が何をするのか、全然読めない。
そんな感じのアルバムの感想。年に1回くらい、じっくり聴きたい感じです。
そう言えば、空気公団のFacebookで新作を作っていると言っていたので、期待。