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あさから。

本の感想、音楽の話、思ったことなど。

宮下奈都 「よろこびの歌」 感想(7) - 御木元玲(千年メダル)

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宮下奈都さんの「よろこびの歌」の感想も今回でラストです。7話とも素晴らしい物語ですが、7話目はそれまでの物語が一つに繋がっていく様な感動があります。

目次

 

 御木元玲

再び

1話で出て来た玲が、物語の終わりでまた出てくる。ラストの話は、物語の終わりとして伝えたい事が全部詰め込まれている感じがする。玲が千夏に手渡した小さな光の玉が、色んな人の手を渡って少しずつ大きくなって、また玲の下に戻ってきたようなイメージ。

 

千夏に、勝てない。彼女に声楽の素養はないが、そういうこととは別の何か天賦のものがあるみたいだ。歌に千夏の一部が入り込んで、どんな歌でも千夏のものになる。(中略)あんな歌は私には歌えない。ただ、不思議なことに、それを認めても嫉妬は湧かない。私は、私の歌を歌おう。

 千夏自身は「自分にはなんにもないんだな」と、多分心の底から思っているけれど、玲から見た千夏は自分の持っていない、素晴らしいもので溢れている。そして、それでも自分には自分の出来る事が、自分の歌える歌があると思えるようになった。

 

選んだこと

 クラスの合唱は間違いなく良くなってはいた。けれど、マラソン大会の時に聴いた、あの歌をどうしても超えられない。「どんな歌にしたいか」を考えながら、クラスメイトと話す。知らなかったこと、気が付かなかったこと、認めたくなかったことが沢山あることを、今は知っている。

 

 ただ自分の志望校ではなかったというだけで、高校を否定し、自分のいる現在を否定し、そうして未来も否定していたのだと思う。クラスメイトたちがどんな思いでこの高校を選んだのか考えることもなかった。

 みんな、選んでここへ来た。私も明泉を選んで入学した。今となってはそうとしか思えない。私はこの高校を選んだのだ。そして運良く私もこの高校に選ばれた。よくぞこんな私を選んでくれたものだ。

 「明泉に来る子たちは望まないのではなく、望めないのではないか」なんて考えていた玲が、自分も皆も、理由がどうであれここを選んで、選ばれてここにいることを認めることが出来た。認めることが出来たのは皆のおかげだけど、皆が変われたのは、玲の力でもある。あの時、合唱コンクールの時、「やらなければよかった」と思う様な結果に終わったけれど、出来ないながらも自分の信じた音楽を伝えようとした。その時の玲が、今の玲を救っている。

 

私には大切なものがたくさんある。大切なものがあるから歌える歌があるんだ。大切なのは歌を歌うことだけ、歌だけがよいものだと思っていたときとは、歌うときの気持ちが違う。歌はよいものだけど、よいものがよく歌われてこそ生きて伝わるんじゃないか。他の大切なものに気づかず、歌しか知らない私に、何の歌が歌えただろう。

 歌うことは結果で、その前にもっと沢山の膨大な思いがあって、自分がそれを歌いたいと思わなければ、良い歌にはなれない。そう思う様になった。もしかしたら、音大の附属高校に落ちた時、玲はただ歌うだけで、表現したいことも何もなかったのかもしれない。

 

よろこびの歌

「じゃあ、どんな歌を目指せばいいんだろう」

「なんかさ、よろこんでもらいたいよね」

 コリエがいった。

「へたくそなのに差し出がましいっていうか、あつかましいとは思うんだけど、やっぱ聴いてくれる人によろこんでもらいたい」

(中略)

「あ、わかった。いちばん聴いてほしい人をそれぞれ思い浮かべるとか?」

 うん、と私はうなずいた。

「いい?未来の自分を思い浮かべるの。あたしたちの歌を聴いてくれてるのは未来の自分だって。今のあたしたちはこんな『麗しのマドンナ』だよって見てもらおう」

 良い歌には、きっと伝えたい思いがある。だとすれば、それを誰に伝えたいのか明確にすれば、もっと良い歌になるはずだと考えた。誰でもいい。だけど、思い浮かばない人もいるかもしれない。「未来の自分」なら、明確に存在している。今は分からなくても、いつか今の自分が未来の自分を救う時が来る。玲がそうあったように。

 

聴いてくれるような人がよろこぶ歌を。—私は自分にいい聞かせる。未来の私に誇れるような歌を。きっと、私たちが私たちの歌を歌うことができれば、それでいい。

(中略)

「聴いてくれる人のために歌うんだよね。未来のあたしのために」

 大きくうなずいたら、ピースサインが返ってきた。

「悪いけど、あたしは玲のために歌うつもりだよ」

 アルトの列の最後尾で早希がいった。負けじと千夏がいい返す。

「あたしだって、玲のために弾くんだからね。未来のあたしがそうしろって」

 聴いてくれるのは「未来の自分」でなくても良い。誰のために歌っても、きっと未来の自分のためになる。そして、玲自身は気付いていないけれど、その姿を見て皆が少しずつ変わっていった。多分、玲はどうして感謝されるのかも分からない。それでいい。分からないままでも、悩んで進んで行く、その姿がきっと正しい。

 

 

7回に分けて書いてきた「よろこびの歌」の感想も、今回で終わりです。書き切れて良かった。一日一話ずつ読み返して、改めてすげーなと思いました。だから、本当は感想「すげーな」で終わりでも良いのですが、少しでも自分の感じた事が言葉の中に残ってくれていたら良いなと思います。

 

割と毎日書くのが大変だと分かったので、明日から少し書くのをやめようかと思っています。やる気が出て来たら、まだ書きたいものは残っているので続きを書こうかと。意外と習慣になってて明日また書くかもですが。

 

あと、最後なのでタイトルの曲を張っておきます。

1.よろこびの歌


よろこびの歌 THE_HIGH-LOWS

 

2.カレー・うどん

 ありませんでした。

 

3.No.1


no1

 

4.サンダーロード


サンダーロード-あの日の俺たち.wmv

 

5.バームクーヘン


バームクーヘン.wmv

 

6.夏なんだな


夏なんだな

 

7.千年メダル


FACTRY(THE HIGH LOWS)2

 

今、私は汗だくでよれよれのただのシャツだ。洗って干されて太陽の匂いのするシャツたちの中に、混じることができるだろうか。グラウンドの片隅でのびのびと歌う彼女たちと溶けあうことはできるだろうか。

 

 

よろこびの歌 (実業之日本社文庫)

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終わらない歌 (実業之日本社文庫)

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