People In The Box 「翻訳機」の歌詞を考える。
新譜のThings Discoveredにも収録されるということで。翻訳機の歌詞を考える。
翻訳機
People In The Box - 翻訳機、聖者たち
「Wall,Window」収録。リードトラックでもある翻訳機。ピープルの曲で好きな曲を一曲選べと言われたら、翻訳機か月曜日/無菌室で迷う位好きな曲。キーもテンポも変わらず、コードもシンプルでピープルらしくないと言えばそうなのだけど、この曲の透きとおる感じ、空気の冷たい感じ、浮遊してる感じが好きだ。季節を表す言葉は出てこないけれど、個人的に3~4月の、冬の終わり、春の始まりの肌寒い季節の曲だと思ってる。何となく。
「きみ」について
翻訳機の歌詞の中で、「ぼく」と「きみ」が登場する。歌詞は初めから終わりまで、少し寂しげで透きとおった世界観なのだけど、「きみ」が誰なのかよく分からなかった。
ぼくはきみの翻訳機になって
世界を飛びまわってみたい
ぼくはきみの気高さを掲げ
恥じ入る彼らを見てみたい
かつてきみは愛した機械で
命を吹き込もうとしたけれど
きみはどこへ行ったの
言葉だけ残して
きみはどこへ行ったの
風だけおこして
きみはどこへ行ったの
きみについて、幾つか抜粋。ここから、個人的な解釈。
きみ=昔の自分(波多野さん)なのではないかな、と思った。もしかしたら、特定の相手がいて「きみ」なのかもしれないけれど、波多野さんはその辺りについては絶対に語らないから、自由に思っていて良いだろう。
ぼく=今の自分。昔の自分に比べて、色んな事が出来る。主に、音楽的だったり文学的な表現だったり、或いはコミュニケーション能力とかも含めていいかもしれない。
きみ=昔の自分。色んな能力がない。表現したい事は沢山あって、プライドが高くて、情熱があるけれど、それに自分自身の表現力が追いついていない。
ぼくはきみの翻訳機になって
世界を飛びまわってみたい
高い空を斧でまっぷたつに
箱のなか震える心臓
カーテン揺れる
踊る光
ぼく(今の自分)なら、きみ(昔の自分)の言いたかったことを全部言える。それを言うために、色んな所へ行く力もある。きみが巨大な箱(自分の世界)に閉じこもっているなら、ぼくがそれを切り開いてやろう。
カーテンの下りは、ギターのフワァっとなる所に被せて音像を作ってると思う。
ぼくはきみの気高さを掲げ
恥じ入る彼らを見てみたい
どこにだって友達はいるよ
誰もぼくらを知らないけど
あのひとごみのなかから
きみのうまれた街を繋ぐ
歌を誰が歌うのさ
静けさが息を荒げる
電話の向こうで
きみの情熱やプライドが決して紛い物ではないと、ぼくは知っている。例え一人きりだとしても、それを分かってくれる人が現れることをぼくは知っている。
きみは生まれた街のことなんて歌おうとしないけれど、誰かが代わりに歌ってくれるのかい。電話の向こう(歌う先)に、話相手はいるのかい。
世界中によくある話は
剥製のように呼吸がない
かつてきみは愛した機械で
命を吹き込もうとしたけれど
誰も耳を貸しはしない
あのひとごみのなかから
きみの育った街を繋ぐ
歌を誰が歌うのさ
それはもうすでにそこにあるよ
きみはどこへ行ったの
言葉だけ残して
きみはどこへ行ったの
風だけおこして
きみはどこへ行ったの
よくある話(例えば、うんざりするようなポップソングだったり、恋愛の歌だったり。聴き飽きたロックだったり。ありふれた、何処にでもあるような歌)は、本気で歌っているとは思えないね。生きていない。だから、きみは必死に自分の歌に命を吹き込もうとした。だけど、誰も聴こうとはしない。
きみは育った街のことなんて歌おうとしないけれど、誰かが代わりに歌ってくれるのかい。
だけど、本当はずっと歌っていた。きみが幾ら目を逸らそうとしても、きみはそれを歌っていた。
そういうきみがいた。思い出せない。あの時の情熱やプライド、それを纏ったきみは何処へ消えてしまったのだろう。今の自分の中に、きみはいるのだろうか。
あのひとごみのなかから
きみはうまれた街を失う
歌を誰が歌うのさ
静けさが息を荒げる
あのひとごみのなかから
きみのうまれた街を繋ぐ
歌をぼくが歌うのさ
双眼鏡をのぞいたなら
きみはそこにいる
ぼくが飛ばす飛行機のなか
横たわるきみの席はファーストクラス
燃料は楽しかったこと
悲しかったことのせめぎ合い
悲しみには終わりがないね
終わりがないのは悲しいからね
ぼくはきみの翻訳機になって
世界を飛びまわってみたい
悲しいね 悲しいね 悲しいね
ときどき 楽しいね
きみ(昔の自分)がいなくなった。きみ(今の自分)は生まれた街(最初の、原初の音楽的な衝動、情熱)を失ってしまった。誰が歌を歌うんだい。きみ(昔の自分)がいなくなったのなら、ぼく(今の自分)が歌おう。きみの代わりに。ぼくは君を思い出せないけれど、確かにそこにいる。
今、ぼくの歌の真ん中にはきみがいる。いなくなったきみを、歌に乗せようと思う。きみのことは思い出せないけれど、楽しい事も悲しい事も覚えている。今なら、何処へだって行ける。僕が君の翻訳機になろう。
書きながら、BUMP OF CHICKENの「ロストマン」と大きなテーマは近いんじゃないかな、と思った。
BUMP OF CHICKEN - ロストマン
ロストマンも名曲だけど、翻訳機も負けない位に名曲。リマスタリング盤でどの位変わるのかが楽しみ。
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