あさから。

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ブルージャイアント10巻感想。 それは希望なのか。

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ジャズ漫画「BLUE GIANT(ブルージャイアント)」が最近完結し、続編の「BLUE GIANT SUPREME」として再スタートした。

つい最近出た10巻の感想。主に、ピアニストの沢辺雪祈のアレをどう思うかについて書いていきます。ネタバレ全開。

目次

 

BLUE GIANT

前作の「岳」も映画化するなどヒットしていた石塚真一先生が、前作を超える勢いで描き続けていたジャズ漫画。特に、楽器をやっている人なら必修で読んだ方が良いと言う位に「読むと練習したくなる」漫画でもある。

 

主人公はテナーサックスの宮本大で、5巻からはピアニストの沢辺雪祈と、ドラムの玉田が加わって18,19歳のトリオ3人の活躍が描かれていた。

 

前巻の9巻では、ピアノの雪祈が急きょ「So Blue(ソーブルー)」という日本一のジャズのライブハウスでサポートとしてプレーする事になった。そして、その結果次第では大たちと組んでいるトリオ「JASS」がソーブルーで演奏出来るかもしれない、という展開。

 

10巻

内臓をひっくり返してやる

 

 雪祈は、以前に自分のプレーを思いきり批判された事があった。「内臓をひっくり返すくらい自分をさらけ出すのがソロ」であり、雪祈のソロは上辺だけだと。

 

その言葉で気付くものがあった雪祈は、本当のソロが弾けるように意識し始める。そして、その言葉を言った本人の目の前でもう一度ソロを弾く。今度は、全てをさらけ出したい。内臓をひっくり返すようなプレーをしたい。そう言う思いで鍵盤に向かう。

 

オレはまだ、19歳だ。

このカルテットで、一番ヘタクソ・・・

正直にやろう。正直に、精一杯・・・。

自分の出来ることを・・・!!

自分を・・・

 

そして、雪祈は精一杯自分を出しきったプレーをする。それによって、JASSとしてのソーブルーでのライブも決定し、全ては順風満帆かと思われた。しかし。

 

雪祈の・・・

雪祈はライブの2日前に事故に巻き込まれ、命に別状は無いものの右腕を大きく損傷、ピアニストとしての生命を絶たれる可能性がある程の大怪我をする。

 

このシーン、最初に見た時は本当に胸が痛んだ。腕が損傷しているだけで、命に別状はないのだけど、それまでに「つき指が怖いからバスケは出来ない」とか、「バイトの休憩中にも膝の上で指を動かす」とか、他にも色々ピアノに全てを捧げる描写がされている。

 

その「ピアニストにとっての命」と言っても良い右腕(右手)が損傷した。本人にとって、それは命を失う以上に辛い事かもしれない。

 

それは希望なのか

前作「岳」のラストも賛否が分かれた、と言うか否が多かったと思う。あれは、「どうして三歩があんな行動を取ったのか分からない」と言う部分が大きいと思う。それまでの三歩であれば、自分の限界を見極めた行動を取った筈で、わざわざ危険の大きい行為に出たりはしないだろう、と思った。

 

では今回は。

 

ネットで感想を見ていると、「物語の都合で登場人物を殺す(負傷させる)」ことへの批判的な意見も見受けられた。それは多少仕方のない面もある。現実で同じことが起こっても誰も何も言わないけれど、創作物で都合の良い展開が起こると批判されてしまう。だから、そこを突っ込んでも仕方がないと思った。

 

ブルージャイアントの10巻は、希望を描いていたと思う。それは、雪祈の事故も含めて、希望に満ちた物語だった。前作の「岳」のラストと比べても、圧倒的に良いまとめ方をしている。その理由をまとめてみる。

 

雪祈はソーブルーで全てを出し切れた

「ソーブルー」で演る初めてのソロで、そして

最後かもしれない。

 

本当に最後になってしまった(かもしれない)けれど、それでも、ずっと憧れてきたステージで自分の全てを出し切ったプレーが出来た。事故後の雪祈が、あまり絶望的な表情をしていなかったのは、「心からやりたかったことが一つ出来た」と言うのが大きいと思う。

 

左手は無事&作曲が好きだと知る

事故前に「自分は作曲が好きなんだ」と知り、事故後に、左手で鍵盤を弾きながら譜面を書いているシーンが映る。

 

雪祈は元々初登場時には、左手だけでプレーして大を驚かせた。その後も、「なんだあの左手」と言う風に、左手でのプレーが凄い風な描写が見られた。実際、左手だけで弾くピアニスト、左手だけで弾くための曲というのは多く存在している。雪祈であれば、左手一本で演奏していく道もあり得るかもしれない。

 


有馬圭亮~左手のピアニスト~

 

大と玉田の存在

そして、大と玉田、特に大が止まらずに進み続けたこと。雪祈の事故を知らされた後も、「止まっちゃダメなとこな気がすんだ。なんとなく」と言って、それまで以上に練習を重ね、ドラムとサックスだけでのライブを成功させる。

 

意味のあるライブだった・・・

とても意味のあるライブだった・・・

 

ピアニストの沢辺雪祈の作曲した曲ばかりだけど、ピアノ抜きでやり切る。そこに居なかったとしても、「俺たちのピアニストはこんなに凄いんだぜ」と言う意志はしっかりと伝わった。

 

そして、雪祈にとってもその2人に出会えたからこそ変わることが出来た。もし、出会う前の雪祈が事故をで右手を怪我していたら、もっと絶望的な顔をしていたはずだ。ラストで大と電話で話すシーンみたいな顔にはなっていなかったと思う。

 

続編の1巻が同時発売

読者的には、続編が同時に出ることはかなりの救いだったと思う。全巻から間が開いたので、「いつ出るのだろう」と思っていたけれど、これは同時に出して正解だった。

 

単純に、同時に出すことで続編へ移行する読者を増やせる、と言うのもあるけれど、10巻の展開ですぐにその後が読めるのは凄く嬉しい。

 

 

確かに、JASSの3人でのライブは叶わなかった。だけど、一生叶わないと決まった訳でもない。雪祈のその後はまだ描かれていないけれど、生きていて、右手以外は無事で、右手も「何年もかければ治るかもしれない」と言う程度には希望が残っている。そう考えると、絶妙な落としどころだったと思う。これで、雪祈が命まで落としていたら、もっと暗いラストだった筈だ。

 

もっと言うと、その出来事が不幸なのかどうか、その時には分からない。スティーブ・ジョブズが「点と点を繋げるのは後になってから」と言っていたけれど、一見して最悪に見えることでも、後から見ると良かったと思える事もある。ジョブズは会社をクビにならなければ、ピクサーを作る事も無かった。イチローも、交通事故でピッチャーを断念する事になったけれど、それによってメジャーで3000本ヒットを打つ打者になった。

 

 ブルージャイアントの10巻はしっかりと希望を描いていた。

少なくとも、自分にはそう思えた。