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空気公団 「僕の心に街ができて」の感想。

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 本日、5月22日。空気公団のニューアルバム「僕の心に街ができて」が遂にリリース。早速聴いたので感想です。

 アルバム

期待

 空気公団の最新作「僕の心に街ができて」。発表されてから、「すごいのが来そう」と期待して、ついでに過去作を振り返る記事を書いたりしてた。気になる方がいたら、空気公団カテゴリよりどうぞ。

 今回のアルバムは、「空気公団の3人だけで作る」っていうのが1つのテーマみたいで、録音・ミックスまで3人だけでやったとか。マスタリングだけ専門の人に任せたらしいけど、それ以外は全部3人。OTOTOYに、今回もインタビュー記事が載っているので読んでみたら面白いと思います。

ototoy.jp

 インタビューの中で、「まず、僕の心に街ができてってタイトルを先に決めた」「描いてもらえるか分からないけど、志村貴子さんの絵のイメージで曲を作っていった」とあって、相変わらず面白い。「夜はそのまなざしの先に流れる」の時は、「人に穴が開いていることに気が付いた」だったし。毎回毎回、アルバムのテーマの作り方というか、気づき方が面白いなあって思う。

今まで

 このブログ内でも結構繰り返し書いているけど、前作「ダブル」を聴いた時に「ここからどうするんだろう?」って思った。前々作「こんにちは、はじまり。」も結構それまでの空気公団から一歩踏み出した感じだったけど、「ダブル」はそこから更に三歩位踏み出した感じだった。「これ以上変わったら、面白いけど、空気公団の範囲から出るんじゃない?(それこそ、くうきにみつるとか)」って思った。前作はゲストミュージシャンも豪華だったし。

 そこへ来て、最新作は3人だけで作ると聞いて、「そうきたか」と。21年目の空気公団がこれからの空気公団に向けての1stアルバムを作るみたいな、そんな感じなのかなと。空気公団メルマガの「はる」から届いたコメントでも、戸川さんが「1stみたいなアルバムだと思った」と言っていて、やっぱりそうなのかなと思った。

 インタビューで「最初の気持ちのものを出す」って話をしていて、音の質とか技術的なことよりも、最初に弾いた時の感覚、ワクワクする感じを出したいってことなのかなと。自分も、ピアノと歌だけで録ったすごくラフなデモを、後で聴き直して「すんごいラフだけど、予感に満ちてて良い」って思ったりする。最初の感じって、きっと慣れたら出せなくなっちゃうのかも。

 ちなみに、自分はここ1か月位空気公団のアルバムを振り返って、それも終わったので、ここ数日、Youtube空気公団コピーバンドを聴くっていう謎の助走の付け方をしてた。神戸大学の方のとか、すごく良かった。それはそれで、結構アルバム聴くのに良いコンディションになった気がする。

 

収録曲

 そんな感じの前置きはこれくらいにして、曲の感想。アルバム全体の感想は一番最後に。今回も全10曲で、1曲がインスト。通して聴いても34分。短い曲が多くて、聴きやすい。

 

1.美しい重なり

 1曲目からすんごい良い曲。今回のアルバムは、特に歌詞が素晴らしいなと思ったのだけど、この曲も良い歌詞。

少し思ったことがあるんだよ

なんでもない日は美しい

 何気ない毎日の、小さな美しさ、気づかないようなことをずっと歌ってきた空気公団が、改めて言い直したような。

笑顔も泣き顔も寒い夜も

なにもかもなくならない

なにもかも見えなくても

新しい日々になっていくんじゃないかな

  後でまた書くけれど、今回のアルバム、歌詞が良いんだけど、その良さの中に「優しい諦め」があると思った。諦めたことで、前を向く。今まで以上に、何かを諦めて、だけど「それでもいいよ」って言う歌詞。

 「なっていくんじゃないかな」って言う、ふんわりしたところも良いなあと思う。

 音の話をすると、今回、ドラムは全編?打ち込みらしい。(?)の理由としては、誰がどの曲で何のパートを担当したか、クレジットが無いので分からない。ドラムが打ち込みな分、それ以外はアナログな感じにしていこうって言う感じらしい。

 確かに、良く聴いてみるとスネアとかが打ち込みっぽい感じはあるけど、そんなに気にならないんじゃないかなーという気がする。実際、MVで聴いた「うつろいゆく街で」では、てっきり戸川さんが叩いてるものだと思ってた。「戸川さん大活躍のアルバムだ!」って。歌以外だと、オルガンの空気公団感が好き。アルバム全体でも、結構上位に来る曲。 

 

2.青い夏の日

 1曲目もそうだったかもだけど、歌がいつもよりラフな感じ。良い意味でデモっぽいというか。他のバンドとか歌手でも、仮歌だったり、最初のテイクの勢いを優先して採用したりってあるけど、そういう感じなのかな。

 印象的なピアノのリフから始まる曲。爽やかなタイトルだけど、「悲しみ」「涙」って言葉が出てくるように、ただただ明るい曲じゃあ全然ない。青い夏の日を思い出して、これから来る青空を祈るような。どの曲も、はっきりとした舞台設定は分からないから、色んな風に取れるけど、そこが広がりを持たせていて、きっと聴く人によって想像する物語が違うと思う。

 あと、一度家で聴いてから、夜に外を歩きながら聴いたのだけど、外で聴いた方がどの曲も良かった。空気公団の音楽は風景に合う。

 

3.いま、それこそが

 これも気に入った曲。ゆったりとしたリズムに、言葉を乗せていくような曲。「風みたいに 雲みたいに」の所で入ってくる、弦の音が可愛い。

 「今を生きているんだ」っていう、力強いフレーズで終わる曲。どの曲も、何かを諦めた上で、前を向いている。前を向くために、一度何かを手放さないといけない。空気公団は年々力強くなってきてると思ってたけど、本当に強いバンドなんだなと思った。音楽を続けるって言うことも、空気公団っていう形を信じ続けてきたことも。良い曲です。

 

4.雨のリズムに乗って

 アルバム内で一番デジタルな曲。キラキラしたプログラミングの音が印象的。この曲はデジタルな方向に振り切ったみたいで、ビートも打ち込みの感じを生かしたサウンドに。曲の構成自体は、ピアノの伴奏と歌だけでも成立するから、ライブアレンジだと印象がまた変わるんだろうなあと思った。あと、作曲が戸川さんらしいです。

 

5.こうして僕は僕らになった

 左側から聴こえてくる歪みのギターが気になる曲。聴いていて、歌よりも左耳に流れてくるギターの音を追ってしまう。音像の作り方が面白くて、今までの空気公団にない位、ギターの主張が激しい。

 「何にもなかった」って歌詞があるのだけど、「何もない」ことは空気公団、というか山崎さんの中で一つのテーマなのかなと思った。このあとの、「見えないままにしないで」でも出てくるフレーズで、過去の曲だと「旅をしませんか」でも。

 何もないって認める、知ることは、諦めて手放すことで何処へでも行けるってことかなと思う。「何にもないからダメ」じゃなくて、「何にもないから良い」。

 

6.思い出の全て(Instrumental)

 最初に通して聴いた時、ここまでの6曲で「これが一番良いかも」ってなった。ピアノのメロディと、残響感ある右左のビート(何の音だろう?)と、時々流れる環境音。それで紡がれる風景が、ファンタジーにもリアルにも感じるすごいバランス。

 最初に聴いた時は、小さい頃、車で田舎の祖母の家から夕方帰ってくる時に見てた風景が浮かんだ。何もない、田んぼと時々民家がポツンと。だけど、何度か聴いてると、すごくファンタジーな風景にも合う音楽だし、都会の街並みにも合うような。不思議なインスト。今まで、空気公団のインスト曲結構あって、「ダブル」の時のインストでさえ、自分の中で同じカテゴリに入っていたのだけど、今回のインスト曲は新しい感じがする。

 

7.静かな部屋

 窪田さん作曲。アルバム内で一番楽し気な曲。リズムもそうだけど、打ち込みのブラスが入ってたり。

声に出して君を呼ぶ

どこかでつながっているんだと

そう信じながら僕は

窓を開けてみるんだ

 なんとなく、窓を開けるイメージが次の曲へ繋がっていくような感じ。開けた窓から飛び出して、次の曲へ向かっていくような。

 

8.見えないままにしないで

 1分強の短い曲で、すごく「初期の空気公団感」が強い曲。このまま、2ndとか3rdに入ってても、そんなに違和感無さそう。曲の短さと、仮歌っぽい感じが重なって、短いデモ曲みたいな雰囲気。普段なら、ここから尺を伸ばしたり展開を変えたり、音を整えて行ったりする所を、そのまま「最初の感覚」を出しているんだと思う。

がんばれ

誰にだって

何にも何にもないんだよ

 聴きながら、涙が出てきた。「見えないままにしないで」、空気公団には珍しくメッセージソングだなあと思った。「僕」が出てこないで、「君」に向けて歌われてる。他の曲だと、「こども」とかもそうかな。あとは、ぱっと思いつかないけど。

 1分19秒の短い中に、優しくて暖かいメッセージが込められてる。

伝わる気持ち

伝えたい温かい気持ちが

君にあふれている

 1曲目の「美しい重なり」では、「美しい日々になっていくんじゃないかな」ってフワッとした表現だったけど、ここではしっかり、力強く言い切ってる。君に、あふれている。何かを伝える時、伝えたい時って、まず相手を信じないと。優しくて、強い。

 

9.君は光の中に住んでいる

 聴いていて、色んな捉え方が出来るとも思ったけど、インタビューではっきり「死んだ人のことを想い出した」って言っていて。曲名を見た時、もっと明るい春の曲なのかなと思ってたけど、むしろ逆で。いなくなった人のことを思って、「君は光の中に住んでいる」って歌う。

君は光の中に住んでいる

毎日に灯りをつけてくれるんだ

 インタビューを読むと、この曲ができて、アルバム全体を前向きな方向にしていこうってなってみたい。どの曲も、その場所がどんなところであれ、前を向いている。

 「君は光になったんだ」って言うフレーズもすごいなあと思う。また、戸川さんが絶賛し過ぎて二人にちょっと引かれたりしてたのかな。戸川さんのツイッター、面白かったな。戸川さんのツイッターは光になったんだ(?)。

 

10.うつろいゆく街で

www.youtube.com

 今回のアルバムのリードトラック。爽やかで、光があふれるような曲。最初に聴いた時、こんな雰囲気で、もっと明るい曲が中心にあるのかなーと思ってたら、ちょっと違った。間奏のギターソロ、ど真ん中で目立って格好良い。ここまで目立つソロって、今まで無かったんじゃないかな?と思う。思い出せないだけかもしれないけど。

 アルバム内で一番爽やかで、すーっと色が透明になっていくような終わり方。この曲がラストで良かった。

 

おわりに

 そんな感じの「僕の心に街ができて」。本当に良いアルバム。発表された時に、「まだ聴いてないけど最高傑作だった」と書いてて、実際今聴いてみてどうか。「最高傑作かも」という感じ。まだ、通して聴いたのが3回位って言うのもあるけど、はっきりと断言できる所までは、まだ来てないかなと。あと、何回か聴いてたらそう言う所までくるかもしれない。「見えないままにしないで」が、特に良くて。

 今作以外で、今までのアルバムで一番は何なんだと考えたら、それはそれで迷う。「くうきこうだん」か、「メロディ」か、「春愁秋思」か、「夜はそのまなざしの先に流れる」か・・・、という位、どれも大好きなので決められない感じだけど、その1つには確実に入ってる。今後、「自分内空気公団のアルバムベストを決める会」を開いた際に、筆頭候補として挙がってくるのは間違いない。開くかは分からないけど。

 それでも一つ言えるのは、今までのアルバムの中で、一番「心に灯りをともす」音楽であふれてると思った。それは、今はっきり言える。「見えないままにしないで」もそうだし、他のどの曲もやさしさと力強さがある。初期の頃の空気公団には、そんなになかった力強さが、特に「こんにちは、はじまり。」以降どんどん感じられるようになった。その、「強い空気公団」が、音楽的にはダブルから一転、元の空気公団のイメージに近い音楽をやることで、地球をぐるっと一周して強くなって戻ってきたみたいな。

 確かに、1stっぽさもあるんだけど、1stと比べると格段に強い。全部が。

 あと、「このアルバムのあとどうするんだろう?」って言う不安がちょっとあったけど、聴いてみて無くなった。むしろ、これを作ったことで、もっと自由になったのかも、って思う。特に、インスト曲が新しかった。今まで見たことない風景。

 それと、もう一つあった。CM曲と、サポステの曲。あれはどうなったんだろう。音源化しない予定なのかな。是非とも配信を希望してます。

 

 まだまだ、聴き返してる内に色々思う事あるかもしれないけど、とりあえずこのあたりで。何か思いついたら、随時追記していく予定。

 今後もずっと、空気公団を聴いていくと思う。ありがとう。

 

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