あさから。

本の感想、音楽の話、思ったことなど。

音楽を題材にした物語 (小説・漫画)の紹介。

 

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 音楽を題材にした物語(小説・漫画)の紹介です。4作品。
 そのうち、他の作品も紹介するかもしれません。

 



 音が出ること


 最近思ったこと。

 音楽は、色んな感情や風景等を表現しているけれど、音楽を題材にした小説・漫画だとそれをもう一回、音の聴こえない表現に変換し直しているよなあ、と言うこと(映画・ドラマ・アニメ等は音が付いてるのでちょっと違うけど)。

 「音が出ること」が音楽の最大の強みであると同時に、弱点でもある気がしている。聴き続けると疲れる。

 その点、小説とか漫画の表現は「音の出ない音楽」の様な感じがして、音をあまり聴きたくない時などに読むと、「音楽は良いなあ」となる(それが、音楽は良いなあって言う表現で良いのかは微妙な所だけど)。

 これは、例えば外を歩いている時に、ふと良い景色を見た時にも感じる。晴れた日、アスファルトの上に伸びる影の形だったり、雲の伸び方だったり。それを音にすれば自分以外にも感じてもらえるのだろうけど、音にしなくても、自分が良いなあと感じたそれはもうその時点で音楽なんじゃないだろうか、なんて思ったりする。

 大きくパッケージングされたものでいっぱいになって、最初どうだったのかが分からなくなりがちだけど、「何かいいなあ」を自分に出来る形で人に伝えようとしたのが、始まりな気がする。ツイッターだって、元々は自分がちょっといいと思った事を皆でシェアしよう、っていうものだったような。

 そう言う訳で、音の出ない音楽の紹介です。


 漫画編


 四月は君の嘘 (新川直司

 母親の死をきっかけに、自らの弾くピアノの音が聴こえなくなった天才ピアニスト、有馬公生(15歳)がもう一度音楽に向き合っていく様を描いた物語。ヒロインのバイオリニスト、宮園かをりと、公生の会話

 
 「君は、自由そのものだ」
 「違うよ。音楽が自由なんだよ」


 という部分(2巻だったはず)が、この作品のテーマだと思う。
 一応恋愛要素があるので、映画化された時はそれをメインに持ってきたらしいのだけど、多分上手く行ってない気がする(見てないけれど)。アニメは良かったです。

 主人公が、次に紹介するブルージャイアントとは真逆で「何故ピアノを弾くのだろう」って言う辺りから、ずっと悩みながら弾き続ける。音楽はとても刹那的なもので、「これだ!」と思っても、数分後にはその感覚を思い出せなかったりする。その、悩みぬいた後の「ほんの少しだけ、確かな物を見つけた感じ」が綺麗に描かれていて、とても好き。

 

 BLUE GIANT (石塚真一


 「岳」を描いた石塚先生が、現在連載中のジャズ漫画。
 仙台市に住む高校生の宮本大が、世界一のサックスプレーヤーを目指していく物語。

 今まで読んだ漫画で一番面白いかも、と言う位に面白い。楽器やってるorやってた人なら尚更面白いと感じるかも。今の所、楽器やってる人4人に勧めて全員好反応だった。

 「四月は君の嘘」の主人公と正反対で、どこまでも真っ直ぐに力強い主人公で、見ていてこちらが元気になる。ライブシーンの森上げ方、エモーショナルな感じに、漫画ってすげえなと思った。

 確かに主人公やその周りの人たちにも才能はあるのだけど、それ以上に「出なかった音が出るようになった」とか、「エイトビートが叩けるようになった」とか、「観客4人の前で始めてライブをする」とか、小さな一歩一歩にド真剣に向き合って、喜ぶ姿が良い。

 まだ連載中だけど、今はタイトルが変わって新展開らしい。

 



 小説編



 羊と鋼の森 (宮下奈都)

 本屋大賞などで話題になった、宮下先生の羊と鋼の森。北海道の田舎の高校生、外村君がとあるきっかけで調律の世界に興味を持って、調律師として少しずつ成長していく様を描いた物語。

 音楽、と言うよりも音の表現が多い。音楽を題材に、と言うと演奏シーンがメインになってくるけれど、羊と鋼の森は主人公が調律師な事もあって、演奏シーンはそれ程多くない。外村君の感じること、思うあれこれはきっと、それ自体が音楽になる前の何かなのだと思う。

 華やかな物語、と言うよりは一歩一歩、本当に一歩一歩足元を確認しながら進んでいく様な物語。その静かな、だけど確かな姿勢に勇気が出る。 

 それと、宮下先生の描く一人称はどれも魅力的で、どれだけ人を観察して、ものを感じていたらこれだけ色んなことを描けるのだろう、と思ってしまう。それは、次に紹介する小説も同様。


 ・よろこびの歌 (宮下奈都)

 「羊と鋼の森」に引き続いて、宮下先生の作品。こちらは、合唱をテーマに女子高生6人の視点から7つの短編で一つの物語を描いている。中心にいるのが、御木本玲という声楽家を志す少女。自らの才能や、歌うことの意味に悩みながらも、合唱や周囲との関係を通じて成長していく。

 再び宮下作品。上でも書いた通り、一人称の描き方が凄くて、こちらは6人の視点を描いているのだけど、6人を一人称で描くことでしか見えないものが見えてくる。それは、自分に無いものだったり、あるものだったり、お互いの考えていること、そう言う事が6人の目を通すと見えてくる。

 テーマが合唱なのだけど、本気で音楽に向き合って、悩み葛藤しているのは御木本玲だけで、他の5人の物語は音楽と関係無かったりする。ただ、御木本玲がそこにいることで、物語に一本音楽の芯が通っている感じがする。

 続編の「終わらない歌」も名作です。


 他に「さよならドビュッシー」(と、続編のおやすみラフマニノフ)、今話題の「蜜蜂と遠雷」も書こうかと思ったのだけど、前者は結構前に読んだので忘れてるのが多そう、後者は今読んでいてまだ半分位なので、そのうち、紹介出来そうなものが溜まったらまた書くかもです。ピアノの森も最初の方しか読んでいないので何とも。映画とかアニメを入れるともっと増えるけれど、一応「音が出ない」と言うテーマなので。もう少し、音楽関係の小説・漫画探してみよう。

 他にオススメの作品があれば、教えて頂けると嬉しいです。

 

 「何のお祝いですか」
 こんな日に。記憶にある限り、僕の人生で一番だめだった日に。
 「なんとなく、外村くんの顔を見ていたらね。きっとここから始まるんですよ。お祝いしてもいいでしょう」

 ― 羊と鋼の森 (宮下奈都)