師匠シリーズ 「双子」 感想。 「君の名は。」と重なる時代性。
通販で届いた「師匠シリーズの7」に収録されている、「双子」という新作について書いてみます。ウニ先生が後書きで「君の名は。と言う映画を見てヤバイと思った」と書いている通り、かなりキーワードが被ってます。時代性なのかなー。
目次
師匠シリーズ
現代ホラー&ミステリー
師匠シリーズは元々、匿名掲示板「にちゃんねる」のオカルト板に投稿されたのが始まりで、2003年頃からスタートしていたとのこと。
自分が知ったのは高校生の頃、2007年か2008年かその辺りだと思うけれど、ネット上の色んな怖い話を片っ端から読み漁っていた時に偶然知った。
作者のウニ先生が自身を「僕」として、大学生時代のオカルト道の師匠との間に起こった、様々な奇妙な出来事を語る、と言う物語。2015年にアニメ化・映画化などが発表されたものの、そっちの音沙汰は無し。ラジオドラマだけ。
師匠シリーズの魅力は、「終わった物語」と「この世とあの世」と言うテーマが、現代を舞台にすることで見事にハマっている所だと思う。
「僕」が昔の話を語る、或いは師匠から聴いた話を語る、と言うスタイルは、どちらにせよ物語が既に「終わっている」ことを最初から語っている事になる。それは、どれだけ奇妙なこと、怖い事、おかしいこと、楽しい事を書いているとしても、もう「今は存在しない」と言うことだ。
師匠シリーズの中でも、「ドアが閉じた」という表現が使われる。色んな、奇妙な体験へ通ずるドアは、今はもう閉じてしまった。そこに切なさがある。どんなことを書いたとしても、微かに切ない部分が残されている、と言う所がすごく魅力的だ。
もう一つ。「この世とあの世」というテーマは、読者を物語の中へ連れて行き、最後に戻ってくる、と言う役割の上で良い働きをしている。
例えば「君の名は。」もそうだけれど、物語が「行きっぱなし」になる事がある。物語の中へ連れて言ったものの、帰って来ないまま終わる、というパターンは結構多い。師匠シリーズでは、あの世の世界、幽霊などを描くことで、ここではない何処かへ連れて行くものの、最初から「終わった物語」という設定で語り始めているため、必ず最後には戻ってくることが出来る。
その上に、しっかりとキャラクターを乗せて、話や設定を掘り下げているので、「入口は広くて、奥は深い」という感じの構造になっている気がする。
双子
今回の双子と言う物語。「師匠から聞いた話だ」で始まる、「師匠」と「加奈子さん」のお話。最近は主人公が「僕」ではなく、「師匠」になっている話の方が多い。単純に、ウニ先生が加奈子さんを描きたいだけだと思う。
以下あらすじ。
若き日の師匠と、加奈子は羽根川里美と名乗る21歳の女性から「双子の兄を探してほしい」と頼まれる。一風変わった「かごめかごめ」の歌、岩倉と言う双子を忌む村、足の大きな道祖神、色んな謎の先に、二人は死を覚悟するほどの試練に出会うが・・・。
まず、毎度思うことだけれど設定が細かい。初期の頃はさらっと読める感じだったのが、段々と気合が入った内容になって、今回は過去最高くらいの密度の設定に。後書きによると、新海監督の「星を追うこども」(2011年)よりも前に草案が出来ていたとのことで、相当練り込んだんだなーと感じる。
今回は、特に日本の神様関連の話が多く出てくる。日本は特に、田舎の方だと色んな風習が残っていて、「言霊」とか「神様」とか、目に見えないものを大切にしてきた文化がある。そういう風土の上だからこそ、神話に登場する神様を設定に盛り込んで行くことで説得力がぐんと増す。神社に行ったら、当然の様に色んな神様が祀られている、という日本の文化はホラーを扱うのにすごくマッチしていると思う。
全体的な感想としては、いつも思うのだけど「起承転結が上手い」に尽きる。これだけ色んな設定を盛り込んでいても、しっかりお話としてまとめ上げている所にいつも感動する。ウニ先生はいつもどんな感じに物語を完成させていくのだろう。ホラー部分よりも、ミステリー部分の作り込みがいつも物凄く丁寧なので、どういう手順で深めていっているのかが気になる。
あと、やっぱりラスト。師匠シリーズの特に長編ではラストシーンが本当に良い。「終わりよければすべてよし」いうけれど、師匠シリーズはどの作品でも毎回素晴らしい締め方をしている。最初に締めから考えるのかもしれない。今回も、最後の盛り上げに畳みかけるような展開が素晴らしかった。
君の名はと重なるキーワード
後書きでも書かれているけれど、同じ年に大ヒットした映画「君の名は。」とキーワードがかなり重なっている。
・かたわれどき
・過疎の村
・神社
・隕石
・この世とあの世
タイトルにある「双子」も、若干君の名は。の入れ替わりに近いニュアンスがあるような気もする。全くの偶然だけど、これだけのキーワードが物語として被っている、と言うのは面白い。
ジブリの鈴木敏夫さんが、君の名は。について「この世とあの世をテーマにしている」と語っていて、更に「あの世に行ったり戻って来ない」という表現をしている。死んだら幸せになれる、と言う(無意識的な)感覚が時代性にあったから、あれだけヒットしたのだと。
師匠シリーズでは元々、「この世とあの世」だったり、「神社」というテーマはよく用いられていたけれど、それ以外の「かたわれどき」だったり、「隕石」だったりは多分今回が初めてだと思う。無意識的に2016年にそう言うものができて、外に出た。面白い。もっと言うと、冬に出た本だけど舞台は夏。その辺りも被っている。
鈴木さんの話に戻ると、日本全体、もしかしたら世界全体が暗くなっていて、幸せじゃない人が多くなっているのかもしれない。デバイスは進化して、生活は便利になっても、それと幸せとは関係が無かったらしい。
「この都市には、なにもかもある。何もかもあるから、もう何もできないように思える」
(王城夕紀 ― マレ・サカチのたった一つの贈物)
王城先生の小説の台詞のように、「何もかもある」ことで、「自分自身は世界に必要なのか?」と考える人が増えたのではないかと思う。そう言う中で、「あの世」というテーマは、ここではない何処かを描くことで、現実世界に希望を見せている。「まだまだ、知らないこと、見えていないことは沢山ある」と思える事は、生きていくのに大切なことだ。
師匠シリーズはネット発と言う事もあり、殆ど全話がネット上で読める。ウニ先生のPixivだったり、師匠シリーズのまとめサイトだったりで。
あと、書籍化・漫画化しているのと、アニメ・ドラマ・映画化も予定されているらしいけれど、その辺りの音沙汰はない。ちなみに、片山愁先生の漫画版は素晴らしいので、活字が面倒な方は漫画版から入っても全然良いと思います。画がすごく好み。
ちなみに、最近出た5巻は個人的に好きな話(「跳ぶ」「追跡」など)が入ってるのと、カラーページ多いのとで気に入りました。
師匠シリーズ ~デス・デイ・パーティ~ 5巻 (ヤングキングコミックス)
- 作者: ウニ,片山愁
- 出版社/メーカー: 少年画報社
- 発売日: 2017/03/30
- メディア: コミック
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師匠シリーズの漫画版は、好きな話の入ってる回(ただし、一人称がウニの物語しか書かない模様)から読んでも良いかも。今度収録話まとめた記事を書こうかな。