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君島大空「午後の反射光」感想。 あまりにも美しいサウンド。

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 話題のシンガーソングライター君島大空の1stEP「午後の反射光」を聴いたので、感想です。何となく、邦楽ロックの一つの方向性の集大成感があった。

君島大空

 空気公団People In The Boxも中村佳穂さんも、「これがきっかけで知った」って言うのをはっきり覚えているけれど、君島大空さん(以下敬称略)に関しては、はっきり覚えてない。

 スタジオジブリ鈴木敏夫さんが、確か「崖の上のポニョ」の宣伝の話だったと思うけど、「人は3回、同じ名前を耳にしたら、興味を持つんじゃないか」みたいな持論を展開していて、その感じだと思う。何回か、「君島大空」って名前を色んな所で聴いたので、調べてみて「おお!」ってなった、と言う感じ。

 95年生まれ、23歳のギタリスト&シンガーソングライターで、「高井息吹と眠る星座」というバンドとソロ、あとサポートとかで活動してる方。

 前置きが長くてもあれなので、曲の話を。

 

遠視のコントラルト

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 1stEP「午後の反射光」のリードトラック「遠視のコントラルト」。5分46秒って、そこそこ長い曲だけど、長さを感じさせない。平成の終わりにとんでもない名曲が出て来たなって思った。

 90年代っぽいサイケな感じのイントロから始まる。アコギのバッキングにエレキを何層も重ねて、ふわっふわしてるすぐ隣で強烈に歪んだ音が鳴ってるんだけど、それが気持ち良い。それが、Bメロに入ってからメロディが落ち着いて、サビで解放感を出すって言う、一番好きなやつ。

 インタビューを読んでいて、「一瞬の景色を引き延ばす」みたいなことを話していたけれど、この曲を聴いて「こんなに思った通りに作ってしまえるのか」って少し震えた。

 優しく君は笑った 遠視のレンズ越しに消えた
 そこまでゆくよ あともう少しだけそうさ
 待ってておくれどうか 忘れないでくれ
 

 2番サビの歌詞。遠視って遠くは見えるけど、近くは見えない目のことで、「遠くのものは見えてるのに、近くにあるもの、大切なものほど見えない」みたいな事かなと思う。それはともかく、1番も2番も、サビの所で逆光で白くなってる風景の向こうに誰かが立っていて、近づくとぼやけて見えなくなってしまう、みたいな映像が再生された。

 「聴いた時に風景が浮かぶ、映像が再生される曲」が好きで、それって曲だけでも、歌詞だけでも成立しない。音に対して、どのくらい強い言葉を乗せるのか、とか音のイメージと言葉のイメージがぶつかっていないかとか、そういうことを意識して書いてる人の音楽じゃないとそうならないけど、正にそう言う音楽。

 Aメロのメロディも音も結構強めだけど、歌詞も「狂った」「胸を抉り取られ」とか、音のイメージに近い言葉を並べていて、Bメロ~サビではもっと淡くて優しい言葉で書いてる。歌詞と曲、どっちを先に書いたのか分からないけど、元々頭の中にある情景を元に言葉を並べて、音を鳴らしているから、本当にそれが美しく重なっている。

 知り合い5人位に聴かせてみて、「90年代っぽい」「誰にも似てない」「(名前忘れた)洋楽のバンドっぽい」「名前から岡崎体育みたいな曲かと思った」「フォーク感」的な感想が返ってきて、Youtubeのコメント欄みたら「七尾旅人」「中村一義」の名前を出してる人がいる。僕は「トクマルシューゴ」「惑星のかぞえかた」を思い出したけど、とにかく何処にも当てはめられない人だと思うし、そうしない方が面白そう。

 最近、知り合いの一人が「ジャンルで分ける必要が無い時代になった」「〇〇の音楽、ってだけで良くなった」って言っていて、そうかもしれないと思った。ジャンルを分けて分けて、多岐に渡り過ぎた結果、良く分からなくなってる。もちろん、多岐に分けた方が説明しやすいって言うのはあるけど、もういいような気がしてる。

 

午後の反射光

 まだまだ書けそうだったけど、話が脱線するのでEPの話に。

 6曲入りで、1曲目と4曲目はインスト。

1.interlope

  上に書いた「遠視のコントラルト」のドラム以外、レコーディング~ミックスまで全部自分でやってるとのことで、ものすごい多重録音。

 この曲だけじゃなくて全部そうだけど、この空気感を一人で作り上げるバランス感覚が凄まじい。演奏とか、作曲とか歌とは別に、「録った音を自分の思う空気感に仕上げる」っていう所に対してのこだわりがすごくて、彼の持ってる一番の才能ってそこかもしれない、と思った。そうすると、一人の作業量が増えてしまって、寡作にならないかなーと余計な心配もしてみたり。

 

2.瓶底の夏

 景色に吸い込まれそうになる。

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 違う曲だけど、ソロのライブだと静かな弾き語りの演奏をしてるみたいで、その雰囲気のまま、もっと音像を鮮明にしていった感じ。今、LINEのプロフィールの曲をこの曲にしてます。

 

3.遠視のコントラルト

 上で書いたので省略します。ただ、瓶底の夏のアコースティックな音像から、急に激しいサウンドになるから、アルバムで聴くとより良いかも。

 

4.情景#1

 インスト。32秒。まだ聴きこめてないけれど、アルバムとして遠視のコントラルト~午後の反射光に繋ぐための曲なのかなと思う。

 

5.午後の反射光

 表題曲。

 最初にトクマルシューゴを聴いた時の感じを思い出した。ベースは入ってるけど、楽し気な感じとか、多重録音で色んな音を重ねてる感じとか、日本語で情景の見える歌詞だけど、何処か別の世界に思える感じとか。

 この曲、7分47秒と長尺で、歌詞を先に全部書き上げて作ったのかなと思った。鳴らしたい音を全部鳴らしてる感じで、自由な音楽。

 

6.夜を抜けて

 この曲も「瓶底の夏」と合わせて、ライブで聴いたら良い夢が見れそうな曲。ゆったりしたリズムで、サビにあたる所が1回しか無くて、個人的にそこが良いなーと思った。サビが1回の曲って、特にメジャーな曲だとほぼ無いけど、一期一会のメロディって言うのも素敵だと思ってる。自分のバンドで今作ってる2曲がそういう曲だって言うのもあって、良いなと思った。

 特に、アルバムの最後の曲だから、一つ一つの音とかメロディが繰り返さないことで、「通り過ぎていく」「同じ景色にはもう会えない」みたいな感じがして、爽やかな切なさが出てる。あと、やっぱり吸い込まれそう。

 

 よく、「空気感のある曲が好き」と言ったり書いたりしてるけど、そういう人には是非聴いてほしい1枚。とりあえず、上の「遠視のコントラルト」だけでも聴いてみてほしい。ここ数年の自分の中のベストが、中村佳穂の「忘れっぽい天使」だったけど、平成が終わる寸前で更新された。

 去年あたりから、「崎山蒼志」「中村佳穂」「君島大空」って、新しいミュージシャンが出てきて、邦楽シーンが次の段階に移ってるなーと感じてる。

 バンド音楽の先行きが見えない感じなのと、米津玄師以降、特にいわゆる「ボカロっぽい」歌いまわしとか、コード感を、自然に使ってる人が増えてきて、そっちが主流になってくのはあんまりなーと思っていたけど、全然関係ない所で新しい音楽がバンバン生まれてて、しかも評価受けてるのがすっごい面白い。どうなるか分からない感じが。

 あと、これはもうすっごく個人的な感覚で、「はっぴいえんど」から来てる邦楽ロックの一つの流れ、くるりとかフジファブリック(志村時代)も入ってる気がするけど、その一つの集大成な感じがした。ただ、何でそう思ったのか自分でも良く分かってないので、その辺りはもし整理出来たら、別でまた今度書こうと思います。

 

 多分、今年か来年か分からないけどフルアルバム出す時が来ると思うので、どんな凄まじいものが出てくるのか楽しみ。多分ハードルはものすごく上がってるけど、それすら軽々越えてきそうな、そんな底知れなさがある。

 

 そんな感じの君島大空「午後の反射光」。是非。

 

 それでは!