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王城夕紀 「青の数学」 感想。 迷え、進め。

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「青の数学」と言う小説が夏に出て、「何これ面白い」と続編を心待ちにしていたのですが、つい最近その第2巻「青の数学2 ユークリッドエクスプローラー」という小説が発売されました。早速買って、先ほど読み終わりました。凄かった。

 

ちゃんとした感想は、今度改めて1巻・2巻分けて書こうと思います。興奮冷めやらぬ内に、何かを記録しておきたい、と言うだけの文章です。

目次

あらすじ

高校1年生の栢山は、雪の日に少女と出会う。その少女、京香凛は数学オリンピックを2年連続で制した天才だった。数学で決闘し、勝敗を決めるネット上の空間「E²」には日々若き数学者たちが力を競い合っていた。「数学って何?」という京香凜の問いを胸に、栢山もE²で闘い始める。

 

3つのテーマ

1・2巻を読み終わって、何となく大きく3つの巨大なテーマがあって、そこから、大樹の枝が無数に分岐するように色んな方向へ広がって物語が出来上がっている感じがします。

 

「数学って何?」

1巻の冒頭で京香凜が発した問い。これが、ずっと付きまとう。主人公である栢山にも、他の人達にも。2巻では、それがもっと色濃く出ていて、一巻通して丸々この問いを延々と繰り返しているような。

 

「数学世界」と言う言葉が出てくる。ある問いを見た時に、その人の内部に広がる数学的なイメージの事で、栢山の場合は風景が広がる感覚がする。人それぞれに見えている景色が違うのと同じく、それぞれの数学の向き合い方も違う。

 

勝つため、何処かへ辿り着くため、楽しいから、好きだから、美しいから、何となく。

 

栢山は京香凜と「数学がやり続けるに値する暇つぶしか、そうでないか」と言う賭けをする。途方もない遠回りをしながら、2巻の終わりで、栢山は自分自身の答えを見つけ出す。

 

青春とは

今までに聞いた青春の定義の中で、一番しっくり来ているのが、「青春とは、自分のやっている事に価値があると信じられる時期の事だ」と言うもの。

 

青の数学、とタイトルにも付いている通り、巨大なテーマの一つに「青春とは」というのがある。京香凜風に言うと、「青春って何?」となるのか。

 

ー青春ってのは、何かを諦めるまでの季節のことだ。だから、終わった後にしか気づけない。終わったときに初めて気づく。自分が今まで青春の中にいたのだと。

 

2巻の後半にそんな言葉が出てくる。栢山には恩師の様な先生が居たけれど、数学をやるのかどうか、高校生になるまで待たされた。

 

ーあいつにとって青春が何か、選ばせるためだよ。

 

 主人公の栢山の周りには、色んな人がいる。生徒会、山岳部、薙刀、野球など色んな事をやってる知り合いや友人が出てくる。その中の一人、色んな部を掛け持ちしながら数学をやっている七加という女子が出てくる。彼女の台詞。

 

「何だって選べるけど、好きなのは数学なんです」

 

自分に何が出来て、何が出来ないのか。何が好きで何が嫌いなのか。分かったり分からなかったり。それでも、自分で選ぶ。諦めることも出来る、迷い続けることも。それも、全部自分で選ぶしかない。

 

1巻から出てくる新開という男子がいる。個人的に凄い好きなキャラで、彼が栢山との会話(正確には、ネット上のやりとり)で、こんなことを言っている。

 

「お前のメッセージは正しい。死ぬかと思った」

「才能がないと分かっても、そこから立ち去れないんだな」

 

栢山の送ったメッセージは

 

「登山家が、何故山に登るか、知ってるか?きっと。挑んでいなければ、心が死ぬから」

 

性格とか雰囲気が新開に良く似たベーシストを知ってる。多分、彼は元気にやってると思う。

 

才能

 京香凜はそんなことを訊かないと思うけど、「才能って何?」が一つの巨大なテーマになってる。

 

宮下奈都さんの「よろこびの歌」で、御木本さんと原ちゃんが、互いに「自分には才能がないけど、彼女は持ってる」と思っている、という一人称の構図が凄く好きで、それも今度思い切り書きたくて仕方がないのだけど、今回は関係無いから省くことにする。

 

数学の才能、と言う意味よりもっと大きな、才能とは何なのか、才能が無かったらやる意味は無いのか、決して勝てない相手に何故挑むのか、そんな疑問でびっしり埋まってる。

 

多分、青春とは疑問に満ち溢れた時期でもある。何かを諦めるということは、疑問に思う事をやめることと同じだ。

 

青春と数学というテーマは凄く合っていると思った。それは例えば哲学でも良いけれど、哲学の場合、正解を出す事が目的じゃない側面もある。「一見して、何の為にやっているのか、さっぱり分からない」ということの方が、青春を描きやすい。

 

周りから見てどうかは関係無くて、本人自身に「今やっていることには価値がある」と思えるかどうか、それだけが問題。多分、周りから見れば机に何時間も机に向かい続けるだけの場面は、青春と程遠く見える。だけど、やっている本人の中では奇跡みたいな事が繰り返されている。小説の良い所は、その奇跡みたいな事を他の人に伝えられることだ。

 

2巻から出てくる二宮と、栢山の会話。

 

「役に立ってるのか立ってないのか分からないですけど」

 

「才能ってそういうものだよな」青年は口元を緩める。「重要なのは才能と意志のベクトルが合っているかどうかだ」

 

静かな疾走感

頭の中で起こることをテーマにしているけれど、青春のきらきらした感じ、迷い、苦悩、諦め、そして静かな疾走感で溢れてる。モヤモヤを抱えている人に是非読んでほしい。幸い、2巻がもう出てるから、1巻読み終わった後すぐに続きが読める。気になる終わり方させられると、待つのがつらい。

 

あと、カバーが凄い綺麗。自分も、宮下奈都さんの本を何冊か買いに行って、カバーが綺麗でつい手に取って少し読んだら面白そうだった、と言う理由で購入したのだけど。

 

 それでは。

 

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